眠れない夜

昔から、こういうときのＢＧＭはピンクフロイドの「原子心母」と

決めていた。眠れない夜、気分はダークブルー。

ベッドの中から、真っ暗の部屋の中で光っているオーディオのパイ

ロットランプを眺めながら、いったい自分は何をしているのだろうと

問いかける。いつの間にか自分を見失ってしまい、まわりに流されて

しまっている。

時間だけがすぎてゆく。この世で純粋、且つ客観的に、存在し得る

ものは時間だけかもしれない。その中において、一瞬、存在し、また

無と帰していく自分。数十年前には無であり、数十年後にはまた、無

である自分。時間の流れの中から言えば、ミトコンドリアよりも微細

な存在だろう。

しかし、人は自ら時間の中央に常に立っているように錯覚し、まる

で明日が保証されているように思っている。そして、その明日のため

に、苦しみ悩む。そして、過去のために苦しみ悩む。

それらはすべて人間の意識のなせる業だろう。

かって存在していたものは今は存在しておらず、今存在しているも

のもいずれは消え去る。

いや、意識の中では今でも存在しているのかもしれない。形を変え

て・・・・。

一つ、思い出してみよう。

かっては存在していた幸福なもの。春の日差しのように何かを予感

させ、そよ風に覆われたさわやかな気持ちでいた自分。

確かに以前それは幸福な存在であったはずだ。しかし、今はそれが

自分を苦しめる呪縛となっている。

そして、このこともまた、いずれは消え去っていくのだろう。

いったい、これらの繰り返しの中で、自分は何を求めているのだろ

う。たとえ手に入れることが出来ても、また、失う時の来ることを知

りながら、それらに執着し、また、その過ちを犯す。

生きていくことにハッピーエンドなんて存在しない。ハッピーエン

ドに思えたことが、実はトラジェディの始まりなのだ。

ここまでわかっていながら、何を悩んでいるのか。・・・・愚かだ。

理屈で考えても無駄なことかもしれない。こんな事に悩まされて、

何故、貴重な睡眠時間を無駄にしなくてはならないのか。

オートリバースのデッキは、「エコーズ」に変わっている。こうい

うときは人と話がしたくなる。しかし、この時間、電話の呼び出し音

に邪魔されることを喜ぶ人がいるだろうか。

この季節、もう外は明るくなりはじめている。時間だけが、確実に

進んでいる。